
海松 稲葉真弓(著)2009年4月発行
『海松』(みる)は、しっとりとした大人の女性の日常を切り取った短編集。
川端康成文学賞を受賞しているらしいです。
中年で独り身の女性が、ヒョンなきっかけから突然三重県の海沿い、しかも
崖っぷちの急斜面の土地を買った。
東京住まいの日常とは全く異なり、不便、危険、肉体労働が必要となる場所に
家を建て、年に数回訪れては、草刈り、枝きり、道を造ったりと汗を流すの
だが、毎回、家の周りの風景や空や生きものなど自然のなかに新たな発見があり、
それらが徐々に彼女の密かな喜びとなり、生きる糧となっていく日々の様子が、
淡々と描かれていく。
繊細な自然描写、女性が年を重ねる哀しさと歓びが巧みに表現されていて、
じわーっと読む者の心にしみ込んできます。
そこはかとなく漂う哀愁、なんんとも言いがたい味わいのある短編。
若い人にはわからないだろう中年女性の人生感、とでもいうのかな。
個人的には、独り身の女性の静謐な感性に共感を覚えました。
ほんとは、同じ作者の『半島へ』を読もうかと検索していたところ、
『半島へ』に繋がる短編『海松』があると知り、順番通りの方がいいかな、
と読んでみて、次回『半島へ』を手にとるのが楽しみになりました。
わがまま母